事件

ラジウムガールズは暗闇で光る!幻想的な姿の裏に隠された恐ろしい真実

1922年、梅毒によって命を落とした女性がいました。彼女の名前は「モリー・マッジャ」。

死亡診断書には「死因:梅毒」と記載されましたが、この記載の裏には大企業の圧力による恐ろしい隠蔽工作が隠されていたのです。

モリー・マッジャを死に至らしめた本当の原因は何だったのでしょうか? 「ラジウムガールズ」と呼ばれた彼女の数奇な運命と不幸な人生についてご紹介します。

ラジウムガールズとは

引用:ati

ラジウムガールズとは、1917年から1926年頃まで時計の文字盤に夜光塗料を塗装していた女工達の事を指します。

彼女達が働いていた工場では放射性物質であるラジウムが含まれた夜光塗料を使用していた事から「ラジウムガールズ」と呼ばれるようになりました。

文字盤の塗装作業は当時の平均的な給料の3倍以上の賃金が支給されるため、当時の労働者階級の女性達はこぞって応募に詰めかけたようです。

破格の給料の他にラジウム特有の発光も女性達を虜にしました。

文字盤の塗装作業に没頭したラジウムガールズ達は、放射能を一身に受け勤務時間が終了する頃には女工自身が発光するようになっていたのです。

暗闇で光るラジウムガールズ達は、その怪しくも幻想的な姿から「ゴーストガールズ」と呼ばれるようになりました。

ラジウムガールズ達はこの特性を利用し、暗闇でも服が光るよう職場にオシャレな服を着て出勤するようになったようです。

放射性物質:ラジウムについて簡単に説明

ラジウムガールズの名前の由来にもなっているラジウムとは一体どのような物質なのでしょうか。ラジウムガールズについて詳しくお伝えする前にラジウムの特徴について簡単にご説明しますね。

ラジウムは1898年にキュリー夫妻によって発見された放射性元素です。発光するという特徴から、以前は蛍光塗料に利用されていましたが、発がん性がある事が分かったため、現在の蛍光塗料には使用されていません。

しかし、ラジウムが無条件に健康被害を誘発するという事はありません。現在、日本には微量のラジウムを含むラジウム温泉というモノが多数存在しています。

ラジウム温泉と聞くと健康に悪そうなイメージがありますが、水中に含まれている放射線はごく少量で人体への悪影響はありませんので安心してくださいね。

もちろん、ラジウムの放射線を大量に被爆すると人体に大きな悪影響が出ます。

ラジウムを発見したキュリー夫人自身も大量の放射線を被爆した事で晩年は体調不良が絶えず、彼女の手記は100年以上たった今も放射線を放っています。

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ラジウムは少量なら健康促進に良いとされていた

放射線が人体に悪影響を及ぼすという事はもはや常識ですよね。しかし、ラジウムガールズ達が活躍した1920年代は放射線の危険性について広く知られていなかったのです。

それどころか微量の放射線であれば健康に良いと考えられていて、「元気が出る水」としてラジウム入りの水が販売されていたほどなんですよ。

その他にもラジウム入りバターに歯磨き粉、化粧品等々……。当時のラジウム信仰が垣間見えますね。

ラジウムガールズの中には笑顔を魅力的に見せるため、歯に直接ラジウムを塗布していた女性も居たといいます。今では考えられない事ですよね。

1922年、ラジウムガールズの体に異変が現れる

引用:ati

1922年、暗闇で光る魔法の物質「ラジウム」の恩恵を受けていたラジウムガールズ達の体に異変が起こり始めました。

塗装工場で働いていたラジウムガールズの一人、モリー・マッジャが病に倒れ、仕事を続けられなくなったのです。体調不良の原因はモリー本人にも分かりませんでした。

不幸の始まりはモリーの歯痛。痛みに耐えかねたモリーは歯医者で問題の歯を抜いてもらったのですが、今度は隣の歯が痛くなったのです。なので今度は隣の歯も抜きました。

モリーを襲ったのは件の歯痛だけではありません。なんと彼女の口腔内は抜歯をした部分に酷い潰瘍が出来てしまい、口臭がするようになったのです。

引用:ati

彼女に取り巻く痛みは口腔内から四肢にまで進出し、やがて歩行が困難になりました。モリーを診察した医師は彼女をリウマチだと診断し、アスピリンを処方しましたが快方に向かう事はなかったのです。

モリーの体を蝕んでいた正体不明の感染症は衰えず、1922年9月12日、口腔内の急速な出血によって24歳という若さでこの世を去りました。

モリーの治療にあたった医師達は彼女の死亡診断書を作成する事になるのですが、肝心の死因が特定出来ず、苦し紛れに「梅毒」と記載して提出しました。

次々と病に伏せるラジウムガールズ達

モリー・マッジャの体が病魔に蝕まれ始めた頃、彼女の後を追うようにラジウムガールズ達も体調不良を訴え、命を落とす者まで現れ始めたのです。

中には顎に巨大な肉腫が出来てしまい、大きく人相が変わってしまった女工までいました。

同業者の女性がこれだけパタパタと倒れ始めると、次は自分の番ではないかと恐ろしくなりますよね。

この現状に立ち上がったのが、ラジウムガールズの一人であるグレイス・フライヤーを始めとする五人の女工達です。

彼女はラジウム会社を相手取り、ラジウムガールズが被った健康被害と死について責任を追求しました。

ラジウムガールズの健康被害について企業側は労災認めず

グレイス達の訴えに対するラジウム会社からの回答は驚くべきものでした。

ラジウムガールズ達の死(健康被害)について、ラジウム会社に過失は一切ないと否定し、さらに「ラジウムガールズ達は会社の評判を貶めて金をかすめ取ろうとしている」と痛烈に非難したのです。

ラジウム会社は、モリーの死亡診断書を振りかざし、彼女達の死因は梅毒であると主張しました。

医師が無責任に書いた死亡診断書を利用し、責任の追求を逃れたラジウム会社。しかし、ラジウムガールズ達の訴えによって企業イメージが悪化し、業績不振に陥ってしまいました。

2年間もの期間、労災を否定し続けてきたラジウム会社は、1924年にしぶしぶラジウムガールズの死と夜光塗料の塗装作業の関連性を調査する事になりました。

訴訟を長引かせるために行われた妨害の数々

改めての調査はラジウム会社独自の調査とは別に行われる事となりました。

命を落としてしまったラジウムガールズを改めて検死した結果、彼女達の死と夜光塗料の塗装作業に関連性がある事が発覚します。

この調査結果を聞いたラジウム会社の社長は大激怒! 今回の調査結果を認める代わりに他の方法で再度研究を依頼する事にしました。

社長が新たに依頼した研究の結果報告は先の調査結果と正反対のもの。はて、調査内容は大きく変わらないはずなのになぜココまで結果が異なるのでしょう。

社長は自ら依頼した研究結果を根拠に、最初の調査内容について確認を進めていた労働省に虚偽の報告をしました。こうしてラジウム会社は正規の調査報告をもみ消す事に成功したのです。

ラジウムガールズ達を勝利に導いた決定的な証拠が明らかに

ラジウムガールズ達にとって、女工の死とラジウム摂取の関連性を証明する事は非常に困難な事でした。

当時、ラジウムが危険だという認識は世間にほとんど浸透しておらず、ラジウムを大量に摂取したから健康を害するなんて理論をまともに取り合う人物はほとんどいなかったのです。

ラジウム会社との戦いは圧倒的不利。形勢は絶望的でしたが、ラジウムガールズ達に転機が訪れます。ラジウム会社に勤めていた男性職員が亡くなったのです。

この事をきっかけに多くの専門家がラジウムの摂取と健康被害の関連性に関心を示すようになりました。この経緯を知ると、当時、女性の社会的地位が低かった事が何となく見えてきますね。

引用:Wikipedia

ラジウムガールズ達が労働災害を訴え始めて3年が経過した1925年、医師のハリソン・マートランドがついにラジウムがラジウムガールズ達の体に悪影響を及ぼしていた事を証明し、さらに彼女達の体内で起こっている現象についても説明しました。

マートランド医師は、女工達がラジウムを経口摂取していたため、皮膚に付着した時の数千倍も大きな被害を被っている事も明らかにしました。

ラジウムガールズ側は、モリーの死亡診断書の審議を確かめるために棺桶を開けての調査も行いました。そこで目の当たりにしたのは発光するモリーの遺体

発光するモリーの姿は、ラジウムによる放射能汚染の決定的証拠です。さらに周囲の土壌はガイガーカウンターで測定出来るほどの放射能値を確認出来ました。

このモリーの遺体が動かぬ証拠となり、「死因:梅毒」と記載された死亡診断書が虚偽の報告内容である事が白日の元に晒され、ラジウム会社は労働災害の事実を認める結果となったのです。

この証拠が決定打となり、ラジウム会社は責任を認め、ラジウムガールズ達は賠償を勝ち取りました。

この出来事は、企業の労働者保護に対する意識を変え、

非業の死を遂げたラジウムガールズ達が被爆したラジウムの半減期はおよそ1600年です。訴訟から100年近く経過した今も、彼女達の遺体は墓の中で光り輝いています。

企業がラジウムガールズに伝えていた嘘

引用:wikidot

ラジウムガールズ達は細い筆の穂先に塗料を付けて文字盤を塗装していました。

小さな文字盤に塗料を塗るため、筆の穂先は常に尖った形に整えておく必要があったのですが、この時ラジウム会社は唇で筆をくわえて穂先を整えるように指示を出していました。

布巾等で穂先を整えると塗料がもったいないからです。

筆をくわえるという事は、少なからず夜光塗料(ラジウム)を経口摂取する事になります。これに不安を覚えた女工メイ・カバリーは、ラジウム会社に訪ねました。

メイ・カバリー
メイ・カバリー
この塗料は体に害はないのですか?
マネージャー
マネージャー
大丈夫だよ。危険はないから安心して。
引用:ati

ところが、マネージャーの言葉は真っ赤な嘘だったのです。ラジウム会社はラジウムの危険性を認識しており、男性職員はラジウムを直接手で触れる事もなく象牙のトングで扱っていました。

危険はない」としながら、男性職員はしっかりと安全対策をしてしていたのです。

さらにラジウム会社の嘘は世間にも広まり、ラジウム入り飲料水や化粧水等に始まるラジウム信仰が広く浸透していく事となりました。

企業で働く女工達からの質問には「ラジウムは頬をバラ色にしてくれる」等と調子の良い事を吹き込み、ラジウムの危険性については知らぬ存ぜぬという姿勢を貫き通したのです。

まとめ:ラジウムガールズの存在が労働者保護の意識を変えた

今回は放射線被爆による労働災害についてご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。

ラジウムガールズについて深く調べていると、ラジウムガールズの戦いには当時の女性蔑視がバックボーンとしてあるなと感じました。

ラジウム会社の男性職員が亡くなってやっとラジウムの健康被害に注目が集まる等ですね。

そしてラジウムの危険性を認識していながら虚偽の情報を女工に伝えた会社側の姿勢にビックリします。インターネットが発達した現代でこのような事をしたら炎上どころの騒ぎでは収まりませんね。

当時は情報を得る方法も限られていて、嘘を信じ込ませる事も比較的容易だったのかなと思います。

上司が言う事であればことさら信じてしまうでしょうね。私も目上の人に似たような事を言われたら「そんなものか……」と納得してしまいそうです。

ラジウムガールズの多くは放射線の被爆によって命を落としましたが、この訴訟がきっかけで労働者保護の意識が高まり世界各国の労働法が見直される事になりました。

現在、私達の職場で安全が確保されているのはラジウムガールズが死に物狂いで勝ち取った功績であると言えるのではないでしょうか。

ラジウムガールズ達が歴史の表舞台に登場する事はほとんどありませんが、その多大な功績を忘れてはいけないなと実感しました。