書籍紹介

【書評】”今”は二度とない。だから精一杯感じるんだ|西加奈子『まく子』

永遠にあり続けることが決まっていると、今その瞬間、何かを見る必要がなかった、何かを感じなくても良かったの。

引用:まく子ー205ページ

今回ご紹介するのは西加奈子氏の『まく子』です。

誰しもが子供時代に感じた何とも言えない心境をもう一度体験出来、時にハッとさせられる深い作品です。

当ブログでご紹介している書籍とは毛色が違う作品ですが、筆者が西加奈子氏のファンなので今回ご紹介させていただきたいと思います。

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まく子 [ 西加奈子 ]
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【まく子】概要

水が軌跡を描いている場面
  • 表題:まく子
  • 著者:西加奈子
  • ページ数:253ページ
  • 発行日:2016年2月25日
  • 出版社:福音館書店

まく子は西加奈子氏が手がけた児童文学作品です。

着々と変化する身体を恐れる「ぼく」こと南雲慧(なぐも・さとし)が、何でも撒き散らす事に夢中になるコズエとの出会いを通じて、大人への成長や死との向き合い方を学ぶ深い物語です。

関西弁での語り口が特徴の西加奈子氏ですが、本作は標準語で物語が展開されていて新鮮でした。

あらすじ

色とりどりの小石

小さな温泉街に住む小学五年生の「ぼく」は、子どもと大人の狭間にいる。ぼくは、猛スピードで「大人」になっていく女子たちがおそろしく、否応なしに変わっていく自分の身体に抗おうとしていた。そんなとき、コズエがやってきた。コズエはとても変で、とてもきれいで、なんだって「撒く」ことが大好きで、そして、彼女には秘密があった。信じること、与えること、受け入れること、そして変わっていくこと……。これは、誰しもに訪れる「奇跡」の物語。

引用:Amazon

著者の西加奈子氏について

きいろいゾウ』『サラバ!』など、たくさんの名作を発表されている作家さんです。

小説家として有名な西加奈子氏ですが、画家としても活動しておられ、本文だけでなく表紙や挿絵の制作もご自身で手がけています。

今回ご紹介する『まく子』は、本文中にも挿絵があり、西加奈子氏の絵も存分に楽しむ事が出来ます。

西加奈子氏のオススメ作品

漁港の肉子ちゃん (幻冬舎文庫) [ 西加奈子 ]
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円卓 (文春文庫) [ 西 加奈子 ]
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【まく子】書評

夕陽を背に咲くひまわり

総評:

『まく子』では、大人への成長(変化)を受け入れる事が物語を通してのテーマになっていました。

思春期に突入する前の何とも言えない気持ちや「大人になる事が恥ずかしい」という微妙な心境が的確に描写されていて、すでに成人済みの筆者も小学校高学年に戻ったように感じました。

筆者はとおの昔に思春期を過ぎた大人でありますが、変化を受け入れるという事は人生を通しての課題だと感じています。

少し小難しい話になりますが、人間の脳には「恒常性」という機能があります。

これは自分の身体や環境を一定に保ち続けようとする機能で、突然

名前
名前
毎日30分ジョギングしよう!

そう決意しても、習慣化出来ずに挫折してしまう、というのが良い例です。

『まく子』では、大人へと成長するにつれて変化する身体に抗う慧にフォーカスが当てられていましたが、

  • 加齢による老い
  • 新しい職場で働く不安感

こうした事例に当てはめて見ると、慧が変化する事を嫌っていた気持ちを理解しやすくなるのではないでしょうか。

西加奈子氏は、本作を児童文学として執筆されたとの事ですが、筆者は子供時代に見ていた景色や感覚を忘れがちな大人にこそ読んでほしい作品だなと感じました。

コズエが慧に教えてくれた大切な事

夕陽に浮かび上がる自転車を漕ぐ男性のシルエット

女子たちは、猛スピードでどこかへ行こうとしていた。きっとそのどこかは「大人」や「女性」や、その類なのだろう。でも、ぼくにとって女子は、大人や女性に向かっている人間というよりは、どんどん得たいの知れない何かに変身してゆく化け物みたいに見えた。

引用:まく子ー4ページ

慧は成長を恐れていました。

男子を差し置いて一足先に大人になる女子を恐れ、やがて自身にも訪れるであろう身体の変化を疎ましく感じていたのです。

慧は、転校生として集落にやってきたコズエと過ごし、様々な経験をしました。一緒に石垣の小石を撒き散らし、てるてる坊主を作り、自身の悩みを打ち明けました。

季節は夏に差し掛かり、コズエと小石を撒き散らすのが習慣になった頃、慧はコズエから重大な告白をされます。

コズエから衝撃的な事を打ち明けられた慧は当初戸惑いますが、この事をきっかけに当初鬱陶しく感じていた心や身体の成長をも受け入れられるようになりました。

コズエは一体慧に何を打ち明けたのでしょうか。そして慧はコズエから何を学び、コズエは慧から何を受け取ったのでしょうか。

実際に読んで確認してみてくださいね。

編集後記

エメラルドグリーンからターコイズブルーへ変化していく波

今回は西加奈子氏の『まく子』をご紹介させていただきました。

西加奈子氏は子供が抱く微妙な心理状態を描くのに長けていて、今回の『まく子』は読んでいて子供時代に戻ったような気持ちになりました。

物語の季節が夏なので、夏のうちに読めたらもっと良かったなと少し後悔しています。

先ほど『まく子』は大人に読んでほしい一冊と述べましたが、夏休みの読書感想文の題材としてももってこいの作品だと思います。

年齢を問わずに楽しめる作品を書ける西加奈子氏。これからも新作を追い続けます。

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