書籍紹介

【書評】人間はここまで残酷になれる|笹沢左保『金曜日の女』

今回は久しぶりに書籍紹介をさせていただきたいと思います。

ご紹介するのは1985年に刊行された笹沢左保の『金曜日の女』。

帯にデカデカと書かれた「騙されている」の煽り文句に惹かれ、2018年の暮れに読了しました。

今発表したらバッシングは免れない過激な作品ではありますが、それだけに強く印象に残った作品だと思っています。

ただ、ネット上では詳細な書評を見かけない気がしたので、当ブログにて少し掘り下げてご紹介したいと思った次第です。

金曜日の女新装版 (祥伝社文庫) [ 笹沢左保 ]
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【金曜日の女】概要

真っ赤なピンヒールに踏みつけられる手錠
  • 表題:金曜日の女
  • 著者:笹沢左保
  • ページ数:379ページ
  • 発行日:2018年10月12日(新装版)
  • 出版社:祥伝社

著者の笹沢左保氏は非常に多作な作家として有名です。

今回ご紹介する『金曜日の女』以外にも『白い悲鳴』『木枯し紋次郎』『真夜中の詩人』等、様々な名作を発表しています。

驚異的なペースで執筆を行なっていた笹沢左保氏ですが、その中でも常に新しい手法を取り入れた作品を発表し続け、多くの読者を釘付けにしてきました。

あらすじ

ワイングラスの中で溶ける血液

就職もせず、虚無な毎日を過ごしていた波多野卓也は、偶然訪ねた旧友・岸部桜子の家で、桜子姉弟が愛し合う衝撃の光景を目にする。数日後、卓也が再び目撃したのは姉弟の血まみれの死体だった。事件の鍵を握る謎の美女、鬼頭美千子と接触を図った卓也だが、二人の周辺で次々と不可解な殺人事件が―。驚愕のどんでん返しと残酷な結末が待ち受ける傑作ミステリー!

引用:紀伊國屋書店ウェブストア

あらすじにもある通り、本作は近親相姦や男尊女卑といった不健全な描写が多く含まれています。

こうした描写が苦手な方や残酷な表現に嫌悪感を覚える方が読むには少し厳しい作品かもしれません。

個人的には刺激的な作品やサブカル好きな方に支持されるタイプの作品だと感じます。

【金曜日の女】書評

ナイフとフォークでカプセル剤を切断している画像

総評:

主人公の波多野卓也がそうであるように、作品全体にかったるい雰囲気が漂っていて個人的にとても好きな作風です。

1985年刊行の作品だけあって、所々に見られる古臭い描写も当時の雰囲気を体感出来て楽しく読めました。

ミステリー要素はあまり強くありませんし、謎解きも簡易的なものですが、呆気なく死んでいく登場人物達を見て「次は誰が狙われるんだろう?」とハラハラ考えながら読みました。

物語の終盤ではキチンとどんでん返しがあるのですが、『金曜日の女』が誰を指しているか一発で分かってしまったせいでどんでん返しの印象が薄らいでしまったのが少し残念です。

せめてもう一つ、どんでん返しがあれば良かったかな~、と。

ミステリーにしては性的描写が多いので、官能的な話が苦手な人は少し注意が必要かと思います。

命懸けの逢瀬という非日常感

逆光に照らされたキスする男女

何事にも無関心で就職もろくにせず、18歳の家主に養われて暮らしていた波多野卓也(25歳)。この無気力な青年は旧友とその弟の死をきっかけに行動を起こすようになります。

旧友姉弟の死は無理心中だと思われたのですが、現場に残された書きかけの手紙にはなぜか卓也の名前が記されていたのです。

卓也さま。

あなたにこのようなお手紙を差しあげて、いったいどのような意味があるのでしょう。お門違いだと、あなたに叱られるかもしれません。でも、あなたのほかに頼りになる方、相談に乗っていただける人がいないのです。どうか、お許し下さい。

実は、とんでもないことをしてしまいました。私が、軽率だったのです。修二の頭を冷やすつもりで、私はそのことを口にしたのでした。それは私のカン違いかもしれないし、どっちにしろ無意味な昔話だったのです。

ところが、その結果は……。頭を冷やすどころか、火に油を注ぐような逆効果となりました。修二はすっかり燃えてしまい、水をかけようとする私の言葉には耳も貸しませんでした。

私という女は、何と愚かな--。

引用:金曜日の女-第六章 血の海

桜子は一体何を相談しようとしていたのでしょうか?

その謎の鍵を握るのが鬼頭美千子なのですが、なぜか美千子は卓也を過剰に遠ざけようとするのです。

「私は、誰とも親しくはしない主義なんです」
「おれと同じだ」
「だったら、わたしとだって親しくならなくてもいいでしょう」
「あんただけは別さ。似た者同士で、親しくなるというのもいい」
「冗談じゃないんです。わたしには近づかないほうが、あなたのためにもなるんですから……」
「あんたに近づくと、どういうことになる?」
「取返しのつかないことになります」
「たとえば……?」
「死ぬかもしれません」

引用:金曜日の女-第八章 女との出会い

自分と関係を持てば命に関わるとまで言い切った美千子でしたが、卓也も簡単には引きません。

美千子を監視する尾行を撒いて、時には海の上で、時には遠方のホテルで命懸けの密会を重ねました。

秘めやかで非日常的な密会は官能的な恋愛小説を読んでいるような気分になります。

美千子と卓也が関係を深めていく中で徐々に水面下で蠢いている物騒な取引や桜子の手紙の真相が明らかになり、ページをめくる手が止まりませんでした。

ミステリー作品としてはイマイチかも

汚れた浴槽と壁に残された血の手形

ミステリーやどんでん返しが好きで、必然的に書店で手に取る小説もそういったジャンルが多くなるのですが、単刀直入に申しまして『金曜日の女』に関しては純粋なミステリー作品としてはオススメ出来ないかなあ……と感じました。

もちろん、序盤で投げかけられた謎は回収されていますし、キチンとどんでん返しもありましたが、あっと驚くような画期的なトリック等はありませんでした。

驚愕のどんでん返しと残酷な結末が待ち受ける傑作ミステリー!

引用:紀伊國屋書店ウェブストア

書店では上記のように紹介されていますし、帯にも似たような煽り文句が書かれていたと記憶しています。

度肝を抜くような展開を期待して購入したのですが、この点に関しては少し不満でした。

編集後記

黒に身を包んだ女性の手足

金曜日の女』を紹介するにあたって、ネット上のクチコミに何件か目を通したのですが、厳しい意見が目立っていて少し驚きました。

確かに「20世紀最大の名作だ!」等とは言い難い作品かもしれませんが、そこまで悪い作品じゃなかったような……。

少なくとも筆者は最後まで楽しんで読めました。

性描写が多い事に加え、近親相姦や男尊女卑等、人によっては受け入れがたい要素が多分に含まれている作品ですが、刺さる人には深く刺さる作品だと思います。

気だるく鬱々とした雰囲気が好きな方刺激が強い作品を読んでみたいと考えている方は、是非『金曜日の女』をご一読いただいてはいかがでしょうか。

金曜日の女新装版 (祥伝社文庫) [ 笹沢左保 ]
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